そこでは転職カウンセリングとして相談に乗ることも多い。
今回は、そんな相談の中から、1つの事例をピックアップ取り上げることにする。
(ご本人には了承いただいています)
相談事例
H.Mさん(27歳・女性・看護師)「慢性期に転職したいと思っている」
Hさんから、そう打ち明けられた。
しかし話はどうにも歯切れが悪く、上司から引き留めにあっているらしい。
「どこに行っても同じ」
「今転職したら苦労する」
「別の仕事を任せたい」
看護師あるあるのテンプレ的な引き留め。
しかし引き留めもさることながら、Hさん自身にも問題があるようだった。
「転職が怖い」
確かに転職には不安が付きまとう。
ましてや急性期から慢性期への転職ならなおさらだろう。
しかしHさんの不安は根深いようだった。
不安の原因
転職の不安は誰にでもある。今の職場を捨てること、次の職場のこと、将来のこと。
悩みは人それぞれ違う。
Hさんの不安の大部分は「自分なんかが」という自己評価の低さから来るものだった。
そこでまずはスキルの棚卸を一緒にしてみた。
・どんな業務を
・どこで
・いつからいつまで
・誰に(誰と)
・どうやって
時系列にそって紙に書き出した。
看護人生を振り返る感じでサラサラっと。
書いていくうちに「あー、去年はこんなことしてましたー」「そういえば2年目はこれもやってましたー」と次々に思い出していく。
客観的に見て十分な経験だと思う。
看護師として15年働く私から見ても十分すぎると思える。
うちの病院に応募したら即採用だろうし、即戦力としても期待できる。
転職サイトに登録すれば、スカウトもかなり届くだろう。
試しに転職サイトに登録してもらった所、1週間ほどで20通を超えるスカウトがあった。
「意外と転職できそうですね…」
Hさんはこう言っていた。
看護師は自分の市場価値を低く見積もりがちだ。
それを正常化するには、自分の価値を客観的に見るのが一番手っ取り早い。
実際、エージェントが付くような転職サイトは、これを上手にやって、転職者の意識を高めている。
転職エージェントは批判も多いが、自分の価値を知りたいなら、最も確実である。
彼らは看護師の市場価値をすぐに見抜く。
でも多くの看護師は、自分の価値を知らずに、何となく転職して、何となく給料に妥協してしまう。
年収300万円台だった看護師が、エージェントを介して年収500万円になったなんて話は実際よく聞く。
自分の価値を知れば「自分なんかが」という自己嫌悪もいくぶん楽になるだろう。
自分がいなくても病棟は回る
「今の担当患者さんをほっぽり出すのは…」Hさんは、まだ転職をためらっていた。
確かに引継ぎや退職後の心配はある。
例えば退職時。
私は何度も転職しているが、しっかり引継ぎをしても、退職後に「これどうなっています?」と電話がかかってくると心配してしまう。
しかし連絡はまったく一度もない。
(それはそれでちょっと寂しいが…)
半年ほどして、当時の元後輩と飲みにいくと「3日くらいは大変でしたが慣れっすよ慣れw」とアッサリした返事だった。
これが現実である。
病棟は毎年誰かが辞める。
そのたびに引継ぎをして、バタバタして、シフトを調整して、新しい人が来て、また誰かが辞めてを繰り返す。
一時的な混乱はあるけど、1週間もしたらいつもの日常になっている。
自分がいなくても回る。
むしろそれが次の世代の成長にもなる。
看護師なら誰もがいずれは経験する。
当事者としても、残る側としても。
慢性期への迷い
その後、Hさんは退職することになった。でも次の職場を探す段階で、また相談を受けた。
「慢性期に転職するか迷っている」
初めて慢性期で働くため、不安が大きいようだ。
確かに新しい環境は怖い。
でも急性期から慢性期は、一般的なキャリアルートでもある。
急性期で1年以上働いていれば、慢性期でも務まる可能性が高い。
求められるハードルは低くなる。
患者さんの変化も少ない。
仕事はほぼルーチン化している。
しかし適性は別の問題である。
慢性期が行きつくのは看取りである。
実態は治療ではなく介護である。
要介護度が3~5の高齢者が大半を占める。
急性期は、ある意味医療の最前線である。
でも慢性期は、そこから1歩下がったところにある。
もちろん「人生の最後をお世話する」というやりがいがあるが、その一方で「看取りでは目標が持てない」と感じる人が意外と多い。
極論を言えば、これは看護観の違いでしかない。
どうにも変えられない性格的な問題でもあり、働いてみないと分からないことでもある。
回復期という道へ
「未来のための看護がしたい」結局Hさんは回復期病棟に転職した(汗)
でもこの選択は正解なんじゃないかと思った。
回復期はリハビリ中心。
患者の離床が進むようにさまざまな工夫をする。
患者さんの気分はリハビリの成果に直結するため、積極的に陽光を取り入れたり、Drの回診に合わせて積極的にカウンセリングをしたり。
患者さんは車イスに座ることから始め、食事が自立し、一人で歩けるようになっていく。
慢性期とは全く違い、積極的な自立支援。
患者さんは若い方から高齢者の方まで様々。
慢性期として評価の高い病院は少ない。
終わりを迎える施設として、できることは限られている。
でも回復期として評価の高い病院はチラホラある。
次に進む施設として、患者さんに合わせた幅広い支援が必要になる。
どちらも急性期とは別世界のゆったりした時間が流れている。
でもその性質は大きく異なる。
どちらに向いているかはその人次第。
その後。
Hさんは、回復期に勤めて5年になるが、主任になることが決まったらしい。
(おめでとう!!!)