私は28歳の時、治験コーディネーターに転職しました。
ちなみに元看護師です。
今でも当時のナース仲間と飲みに行くのですが、
治験ってどう?
仕事大変?
私も転職しようかな?
といった相談をよく受けます。
そこで今回は治験コーディネーターの立場から、治験業界について語ってみます。
治験コーディネーターとは?
ザックリ言えば調整役です。「製薬会社」「患者さん」「医師」の3者を仲介する職業です。
「臨床試験コーディネーター」「CRC(シーアールシー)」と呼ばれたりもします。
治験コーディネーターの歴史は浅く、日本では1997年頃が発祥と言われています。
1997年といえば、GCPという治験のルールが発令された年です。
それ以前にも治験のルールはあったのですが、抜け穴だらけのいわゆるザル法でした。
それが1997年のGCPによって厳密化しました。
ルールを破れば法律により罰せられるという厳しい内容です。
この新ルールの登場により、当時の治験業界は大激変しました。
特に影響の大きかったのが「患者さんへの説明」です。
以前は、患者さんへの説明はいい加減でした。
表向きには「詳しく話したらブラセボ効果で実験が失敗する」という理由です。
でも本音は「面倒だから」です。
何十人もの患者さん全員に、治験の詳細を説明をし、同意を得るのは、かなり大変な作業です。
特に副作用は、詳しく説明するのに比例して、辞退率も上がってしまいます。
それが1997年の「しっかり説明しなさい」という新ルールにより、適当なことができなくなります。
「説明だけで何時間もかかる!」「割に合わない!」「もう治験はやらん!」という医師が続出しました。
その代役として「治験コーディネーター」という職業が生まれたのです。
今では患者さんへの説明だけではなく、「薬の治験をしたい製薬会社」「治験に参加する患者さん」「治験を実施する医師」の調整を行うまでになりました。
治験コーディネーターの就職先は?
治験コーディネーターには主に2つの就職先があります。・病院
・SMO
治験コーディネーターの就職先は、製薬会社だと思われがちですが間違いです。
病院かSMOのどちらかです。
※SMOについては後で詳しく説明
病院に就職した場合は、調剤や看護業務との兼任がほとんどです。
治験専属は、たいていがパートかアルバイト採用です。
治験専属かつ正社員というのは、ほとんど聞きません。
そもそも病院が治験コーディネーターの求人を出すこと自体が稀です。
そのため治験コーディネーターを目指すなら、SMOに就職するのが一般的です。
SMOとは?
SMOは、治験の支援会社です。大半の治験コーディネーターはSMOに属しています。
SMOは全国に100社ほどあります。
上場している大きなSMOから、社員数人の小さなSMOまで、その規模は様々です。
有名なのはEP綜合やシミックグループ、エシックなどでしょうか。
よく目にする治験コーディネーターの求人は、こうした大手がほとんどです。
大手SMOと中小どちらが働きやすい?
個人的に大手が働きやすいです。待遇面は給料、福利厚生、休日の取りやすさなど、大手ほど当然良くなります。
ノルマに関しても大手の方がこなしやすいです。
ノルマとは?
治験コーディネーターは「症例数確保できたのか!?」と上司からも、製薬会社からも問い詰められます。症例数とは治験者(患者さん)の数です。
新薬の許可には一定数の症例数が必要ですし、それが会社のノルマ(売上)にも繋がります。
しかしこれが大変なのです。
治験は症例にあった人を探さなくてはいけません。
健康な人なら誰OKな治験であれば楽ですが、「国内に〇〇人」といった希少症状だと探し出すのも大変ですし、治験に参加してもらうのも大変です。
こうしたことから症例数を稼げる、つまり治験者を集められる人が、優秀な治験コーディネーターと言われています。
治験者はどんな人?
色んな方がいます。健康な方から、病気に苦しむ方、医療の役に立ちたい方、お金目的の方。
その中でも多数を占めるのが、学生さんやフリーターの方です。
学費を治験で稼ぐ人もいますし、治験で生活する「プロ治験者」と呼ばれる人たちもいます。
ただし一度治験に参加すると、数ヶ月のインターバル(空白期間)が必要になるため、稼げても年200万円ほどになります。
ちなみに最近は、主婦や社会人が急増しています。
というのも治験は副業として優秀だからです。
「薬を飲むだけ」という手軽さもありますが、税制面でもお得です。
治験者がもらえる報酬は、全て非課税だからです。
給料ではなく負担軽減費であり、労働ではなく、ボランティアなのです。
非課税であれば、社会人にとっては副業が会社にばれないですし、主婦にとっては扶養制限(103万円の壁)も問題になりません。
治験者はどうやって集めるの?
主に3つの方法があります。・一般公募
雑誌やネットで募集する方法です。
昔は雑誌が主流でしたが、今はネットです。
大手SMOは、専任のエンジニアが募集業務をしてくれるため、ノウハウがない治験コーディネーターでも大丈夫です。
・リピーター
治験者はリピート率が高いです。
先ほどもお伝えしましたが「プロ治験者」や「副業」など、治験で生計を立てる人が結構います。
こうした方々にメールを送るだけで、症例数が確保できることもあります。
・病院からの紹介
希少症例の場合、病院の紹介に頼ることになります。
難病患者さんは、大学病院や一部の専門病院に集まります。
こうした病院に営業するのが重要になります。
大手SMOは医師ごとに営業担当を付けているくらいです。
まとめ
大手は分業されており、働きやすさはあります。治験コーディネーター未経験ならやはり大手がいいでしょう。
中小は雑務は多いですが、全てを覚えたいならいいかもしれません。
ただしブラック率も高くなるため、しっかり吟味したほうがいいです。
追記:ブラック体質なの?
昔ほどではないですが、今でもそうした傾向はあります。新薬1つで何百億、何千億という大金が動くため、重圧は大きいです。
ブラックの例として。
その昔、治験結果が思惑通りにならなければ、意図的にそれに近づけることがありました。
例えば、治験者に圧力をかける方法です。
「薬を飲んでないのでは?」「吐いたのでは?」「別の薬も飲んでいるのでは?」と。
もちろん被験者の方は「言われたとおりに飲んだ!」と主張します。
ブラック会社は、高圧的に迫ったり、アメをぶら下げてみたり、報酬を払わなかったりと圧力をかけていくわけです。
「そうかもしれない…」と言わせれば、この被験者を試験結果から除外できるのです。
こうして都合の良いデータだけを集めることで結果を操っていました。
製薬会社は、そうした配慮をしてくれる治験会社を選んだりもしました。
今これをやると一発退場の可能性があり、露骨にやる会社さんはほとんどありません。
でも一部のきわどい会社さんは、今でもありますのでご注意を。